ROAインタビュー アグレッシブな海外展開、その戦略とバンド運営の新しいカタチ

2018.8.3


ROA | アグレッシブな海外展開、その戦略とバンド運営の新しいカタチ
ROA

そのユニークなバンドのあり方と積極的な海外展開が注目を集めている7人組ロックバンド・ROA。SNAIL RAMPのAKABAさんを擁し、三味線のメンバーが二人いるなど音楽的にも幅広さがありながら、単に和楽器がいるバンドという枠だけではおさまらない楽曲が高い評価を得ています。今回は、ROAのギター兼バンドのプロデューサーを務めるSHUさんと、バンドのスタッフとしてマーケティングを担当するJoshuaさんに、普段の音楽的なインタビューではこれまで語られていなかったバンドの活動戦略やマーケティング施策などの部分について具体的に語っていただきました。

 

海外ツアーでも、事前に施策を打って良い結果につなげる

——先日はカリフォルニアとロンドンでライブをされていましたが、現地の反応はいかがでしたか?

SHU:すごく良かったです。オーディエンスの熱量も非常に高かったですね。ツアーに出る前に、ライブ情報や楽曲が現地の人々にリーチするようFacebook広告を始めとした施策をきちんと打っていたので、それも良いライブの結果につながった要因の1つだと思います。最近、Joshuaが海外も含めたデジタル・マーケティング担当でジョインしてくれたおかげで、より精密にデータを分析して、そういった動きもできるようになってきました。

——今回のツアーのきっかけは何だったんですか?

SHU:カリフォルニアの方は、今年「Warped Tour」が最後だったんで、それをちょっと見に行きたいなっていう僕のわがままが発端で(笑)。それで、Onokuwaと一緒にやるとなってからは、向こうに行くならROAとしてライブも現地でやりつつMVも撮影しようということになって。そして結局現地でも国内との時差でくる仕事におわれ「Warped Tour」は忙しくて行けなかったです(笑)。ROAが所属していて、僕自身も働いているOnokuwaとして、ファンの見えない熱量を可視化させるというテーマを実践しつつ、VIPOから助成金を受けたりもしながら実施しました。VIPOの助成金は、今年から新しい制度になったので申請のハードルも高く、事前にテストマーケティングのデータや予測数値の提出も求められたのですが、そこもきちんとクリアできたので審査に受かり、無事助成金がおりました。


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SHU

——ただ漫然と海外でライブをやるのではなく、しっかりビジョンをもって動かれたんですね。ちなみにROAにおいて、Onokuwa社とHi-PLY RECORDS、あとイギリスのレーベル・JPU RECORDSとの契約の状況はどういう風になっているんですか?

SHU:ROAにとってHi-PLY RECORDSはあくまで本当にインディペンデントで活動する際の名義と言いますか、レーベルを名乗らないと話が通用しないところがあったり、時には下に見られることがあって名乗っていたようなものでした。Onokuwaの方針として、日本の所謂「レーベルに所属する」といったことではなく、海外では昨今主流になっているアーティスト自身が権利周りも含めてイニシアチブを持って仕事をしたい人・法人とパートナーシップを結ぶエージェント制度を日本でも普及させたいという考えがあり、現時点では僕がOnokuwaのアーティストマネジメント部門の責任者かつROAのプロデューサー兼プレイヤーとした立場でROAはOnokuwaのプロジェクトパートナーとして契約している、といった状況です。なのでJPU RECORDSは海外流通におけるパートナーでもあり、Onokuwaとのパートナー企業でもあります。

 

グローバルでも、フラットなロックバンドとして訴求

——ロンドンのツアーの方はいかがでしたか?

SHU:イギリスで開催されている日本コンテンツのショーケース「HYPER JAPAN Festival 2018」への出演で行ったのですが、そのイベントだけでは日本のコンテンツ好きには見てもらえるかもしれないけど、純粋なロックファンへのアピールにはならないだろうということで、HYPER JAPANとは別に現地のライブハウスでもライブをやりました。

これまでフランスの「Japan Expo」にも2回出演しているのですが、そういうイベントでのライブは盛り上がって当然なんですよね。とにかく日本が好きで、日本コンテンツのファンの人たちばかりが集まっているので。

Joshua:そういう海外での日本のショーケースイベントに出るのももちろん大事なのですが、それだけじゃなく、ローカルのライブハウスで現地のバンドと一緒にライブをやるといったことも、今後ロックバンドとしてグローバルに展開していくにおいて絶対に必要な取り組みの1つだと考えているので、そういったブッキングを行いました。

——フラットなロックバンドとしてあって、その出身がたまたま日本だったという感じでしょうか。

SHU:そうですね。アニソンのテーマソングを手がけていて、アニメきっかけで海外のライブでもお客さんが入るというアーティストのケースもあると思うんですけど、自分の中でそういったファン層に今の段階でリーチすべきかどうか葛藤していた時があって。実際、ROAもアニソンに合うんじゃないかという声もあったりするので。そういう時に、Joshuaから海外のリアルな音楽事情についてアドバイスをもらって、やっぱり僕らが目指す方向においてアニメなどがきっかけの層へのアピールは今の段階では取り組むべきではないと気付いたので、今回の海外ツアーにはフラットなロックバンドだという考えをもって取り組みました。

——三味線のメンバーがお二人いらっしゃるということで、いわゆる「ザ・和」的な見られ方をする時もあるかと思うのですが、ROAのブランディング、バンドの見せ方に関してはどのようなお考えでしょうか?

SHU:音楽的な部分の話になりますが、メインコンポーザのドラムのAKABAはFoo Fightersの信者のような感じなんですね。他のメンバーもだいたい洋楽のロックが大好きで。なので、そういった楽曲を目指しつつ、楽曲を引き締めるさらなるスパイスとして三味線を後から入れるようにしていて、逆に和に寄り過ぎないということは意識しています。

Joshua:ロンドンに行ったとき、現地のレコーディング・エンジニアに既存曲の1曲をレコーディングしてもらったんですね。そしたら、三味線の入ってる感じがすごく新鮮でいいと言ってもらえました。和楽器うんぬんというより、楽器の音色として素晴らしいと。

SHU:その人は、80〜90年代のイギリスのシンガーとかロック、それこそOASISとかも録っているようなレコーディング・エンジニアでした。それで、多分UK独特のいなたい仕上がりになるのかなと思っていたら、かなりROAの楽曲に寄せた仕上がりになっていたので、海外の人にもROAの楽曲がそういう風にとらえられているんだというのが分かって勉強になりました。その音源は今回のUS・UKツアーのドキュメンタリービデオを作る予定なんですけど、そこで使用しようかなと思ってます。

——三味線が全面にでているというよりは、ロックバンドに単に楽器としてあるという感じなんですね。

SHU:ほんとその通りですね。和を海外に出したいといったコンセプトでROAを始めた訳ではなく、洋楽ロックやパンクの影響下にあるバンドに三味線をいれたらどうなるんだろうっていう、単純にそういうところから始まったスタイルなので。

Joshua:海外の人からは「着物着て活動した方がいいよ」って言われるんですけど、そのスタイルはROAが目指す先の選択肢としてやはりなしですね。あくまでロックバンドとして提示していこうということですから。

SHU:Japan Expoのようなところだけを目指して活動するなら、僕らも迷いなく着物を着ていると思います(笑)。

——今回海外でライブをして、何かなるほどと思うようなことはありましたか?

SHU:マーチャンダイジングの話なんですけど、向こうでTシャツは2,500円だと高すぎるんですよ。日本のマーチのクオリティってすごく良いから、高く売らなければいけない。現地のバンドのTシャツなんてペラペラですからね(笑)。1,000円とかで売ってますし。だから、原価や利益率のことを考えると、海外でマーチを展開するのであれば、現地で生産するところからやらないとだめなんだなという気付きはありました。

Joshua:ラバーバンドも持っていきましたけど、向こうでは売れなかったですね。日本で売れるものを海外の人も欲しがるかというと、必ずしもそうではないなと。

SHU:こういった知見や事例は、国内のシーンにどんどん伝えていきたいですね。

 

常にPDCAをまわす

——そのように積極的に海外展開に取り組まれていますが、改めて戦略や考え方をお伺いしたいです。

SHU:大前提としては、SNSをいかにうまく活用するかですね。僕らもまだ模索しながらで、めちゃめちゃすごい結果が出ている訳ではないのですが、昨今上手くいっているアーティストは間違いなくSNSの使い方が上手ですから。

——例えばどういったことでしょうか?

SHU:基本的なことだと思いますが、例えばInstagramだったら、カメラマンが撮った素材を無駄にせずにコンテンツとしてしっかりオモテにだす。Instagram Storiesで数字の良いコンテンツがあったらハイライトに使う。IGTVでファンのエンゲージメントが高くなるよう動画を配信する。そういうことが上手なアーティストは参考にしています。

他に、地域に応じて情報発信のプラットフォームを最適化することも重要だと思います。良い音楽を作るのは言うまでもないことですが、それを好んでくれる人にいかに的確に届けるかですね。Twitterをこんなにやっているのは日本人ぐらいですし、海外を狙うのであればFacebook、Instagramの活用というのはやはり確実におさえなければいけない。

——中国だったらWeiboもありますしね。

SHU:そうですね、あと中国だとbilibiliには既にアカウントがあるので、今後やっていく予定です。

——広告を運用される際は、クリエイティブはどのような工夫をされていますか?

SHU:今回のツアーでの施策の場合だと、A/Bテストをずっと繰り返して、アー写よりライブの写真の方が数字が良かったので改善したり、そういうPDCAをずっとまわしています。

Joshua:アー写だと普通に日本人が並んで立ってるだけで、海外の人からすると何をやっているグループか分からないんですよね。ライブの写真だと「この人達はバンドなんだ」ということが一発で伝わるので、そういう当たり前だけど細かい調整を繰り返しています。もちろん海外のユーザー向けの場合はテキストも英語にして。


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Joshua

——あまりデータや数字の話ばかりになるのも恐縮だと思いつつ敢えてお伺いしますが、活動におけるKPIとかは設定されていますか?

SHU:国内と国外で異なっていまして、国内だとライブの動員数やTwitterのフォロワー数、僕らをサポートしてくれているファンクラブよりもコミットが強い集まりであるストリートチームのメンバー数などです。海外であれば、Facebook、Instagramにおけるフォロワー数やソーシャルアクションですね。

 

サブミッションも積極的に

——海外メディアにもアプローチされているんですか?

Joshua:イギリスの日本音楽のメディア「JROCK NEWS」にアプローチをして、かなりとりあげてもらいました。MV公開のニュースやインタビューも対応してくれました。

SHU:海外の他のメディアに関しては「JROCK NEWS」をきっかけにしつつ、もう少しROAのヴァリューがグローバルで高まってからアプローチする予定です。今の段階でいきなり働きかけてもまだうまくいかないと思うんで、順番に段階を踏んでいきたいと考えていますが、先日、海外のサブミッションメディアを集めたプラットフォームSubmitHubでROAのMVのプロモーションを行った結果、approved rateが数パーセントの大きなメディアにレビューとして取り上げられることも決まったので、和楽器が入っている日本のアーティスト、という偏見なく、グローバルで活動するロックバンドとして戦えていることは実感してます。

——音楽ストリーミングサービスを活用した取り組みに関してはいかがでしょうか?

SHU:それは、今まさに仕掛けようとしているところです。今回HYPER JAPANで取材を受けた時、今後の展開について聞かれたんですけど、ストリーミングサービスでの施策をやっていきたいと一番最初に答えましたね(笑)。

また、音楽を届けるフォーマットにおいて、アルバムという概念はもう大事ではないと考えています。ものすごくコンセプチュアルな作品を制作する場合などは意味があると思いますが。


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——プレイリストがそのポジションになるという流れもありますね。

SHU:12曲あったとして、MVになっているリードトラック以外は相当コアなファンじゃないと聴かないじゃないですか。だから、僕らが盤を作る場合は、デジタルで配信できる今に敢えてCDを出すという意味をきちんと持たせて制作しています。乱暴に言うなら、買いたい人だけ買えばいいというか。なので、これまでもアートワークや歌詞など、本当に欲しい人が喜ぶからくりや仕掛けを入れて作ってきましたし、フィジカルで出すのならそこまでやらないと意味がないと思います。

この「意味がない」というのは作品としてコンセプチュアルなことをやるのはアーティストとしては当然で、僕たちが追い求めているのはその先にある「数字」です。今年の4月に出したフルアルバム『RODIAC』はあえて日本以外の国だけでフィジカルをリリースして、日本ではサブスクリプションサイトで全トラック解禁、MVも3本出した結果、本当に多くの日本の方がわざわざ輸入をして買ってくれたのがSNSを通してわかりました。

これには、どれだけ熱量の高い人が日本にいるのかを可視化したいという思惑があったのでこれから出るJPU RECORDSからのセールスレポートを見て今後このような「一手間をかけてでも購入して頂ける熱量の高いファン層」にどのようにアプローチするか、もっと具体的に言えばそれらのデータを見て次回以降のクラウドファンディングの目標設定金額の一つの指標にしようと考えています。

——ROAはそのクラウドファンディングも積極的に実施していますよね。しかも、いずれのプロジェクトも目標額を達成しているという。

SHU:最初のJapan Expoに伴う音源制作費のプロジェクトでは目標金額の265%の929,500円、次に募集したセルビアのバンド・Senshiの招聘プロジェクトでは目標金額の120%の3,002,700円が集まりました。

——Senshiははじめてきくバンドだったんですけど、それはどういった経緯で?

SHU:彼らに関しては最初SNSで知って、一緒にやったら何か面白そうなバンドだなと思ったんですよね(笑)。それでコンタクトしてみたら、彼らも「ぜひ日本に行きたい!」ということで始まりました。ちょっと金額の設定が厳しいかなとも思ったんですけど、最終的には120%を達成しましたし、僕らのバンドの規模で、しかも日本で無名のセルビアのアーティストを呼ぶのに、ここまでの金額を集めることができるっていうのは、周りのアーティストにもいい刺激になったんじゃないかなと思っています。ちなみに、SenshiのツアーにROAは全て帯同して、9月からツアーが始まります。

 

インディペンデントでも、やり方次第で大きい資本がついているアーティストにもひけをとらない

——そのようにとにかく幅広く活動をされていますが、ROAのアーティストとしてのゴールはどうお考えですか?

SHU:活動の部分では、フェスや自分たちが主催するライブ以外はすべて海外でライブを行うような、海外メインの活動にしたいですね。バンドの経済的な部分では、企業とのブランディング提携といったような展開を視野にいれています。

——我々も、日本のアーティストが世界に発信していくのをサポートするというサービスコンセプトがあるので、ROAのようなバンドがどんどん増えていっていただければと思っています。

SHU:ROAはこれからの音楽業界における実験プロジェクトというか、コンポーザー、サウンドエンジニア、映像作家、プレイヤー、マーケター、プロデューサーなど様々なクリエイティブ人材の集合体のアウトプット先がROAになっているイメージなんですね。こういった体制であれば、インディペンデントでも大きい資本がついているアーティストにもひけをとらないぐらい、海外展開を含めここまでアグレッシブにやれているので、こういうやり方でも可能なんだということを身をもってもっと実証していきたいです。


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