オントレンドのアーティスト戦略 | ストリーミング1億5,000万回超え、Bruno Majorのマネージャーが語る

2018.11.21


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Sam Bailey(Bruno Majorマネージャー)
 

ストリーミングの総再生回数が1億5000万回を突破。今年(2018年)初のアジアツアーも大成功をおさめたばかり。新世代のイギリス出身シンガーソングライターBruno Majorをご存知だろうか。シンプルながら深い歌声と巧みなギターテクニックで、世界中にファンを抱える彼の成功はレーベルから離れることで実現した。一体どんなビジョンを持って、そしてどんな活動を通して現在までの成功に至ったのか。今回は海外アーティストのリアルな最新の戦略に迫るべく、Brunoのマネージャーを務めるSam Baileyさんに、Brunoとの出会いからプロモーションの方法まで、詳しくお話を伺った。
 

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Brunoのために大事にしようとしたことは「彼に自由に作曲させよう」ということ

――まず始めにBruno Majorとはどのように出会ったのでしょうか。

大学を卒業してユニバーサルレコードのCentral Digital Departmentで一年間インターンをしたんだ。そしてそのままIsland RecordsのA&Rとして就職をした。A&RというのはArtist and Repertoireの略称で、基本的にはアーティストを発見して契約をしたり、ライブの企画をしたり、プロデューサーと一緒にアルバムを作ったりするんだけど、僕の仕事はアルバムの制作において、主なA&Rの仕事をサポートすることだった。幸運なことにAmy Winehouse、Florence and the Machine、Ben Howard,、Mumford &Sons、Keaneといった偉大なアーティストと一緒に仕事をすることができたよ。

また同時期にアーティストのスカウトも担当していて、その時に初めてBrunoに会ったんだ。初めてライブに行った時から彼とは交流していて、でもその時彼はまだ曲を書き始めて、歌い始めたばかりだったからレコード契約をするには時期が早すぎた。だから僕は個人的に彼のサポートを始めたんだ。Brunoとプロデューサーのセッションの場を調整したり、パブリッシャーやマネージャーに紹介したりね。そこから数ヶ月して、彼からマネージャーとして働くことを依頼されたんだ。今から6年も前のことだよ。

――そうなんですね。まず始めにレコードレーベルで働かれたとおっしゃいましたが、その理由はなんでしょうか。現在はアーティストがレーベルに所属しなくとも、個人で十分活躍できる時代ですので、例えばアンダーグラウンドのような音楽がお好きな場合、本当にやりたい事と仕事の内容とが、そぐわない場合がありますよね?

僕がレーベルで働いていた期間は、僕にとって音楽業界がどう動いているのかについて学ぶため、とても有意義な時間だったと思っているよ。大規模なマーケティングについて知ることができたり、業界の構造を勉強する上で最適だったと思うよ。

――マネージャーとしては、日々どんなお仕事をされているのでしょうか。

マネージャーと言っても色々な側面があるから、うまく言えないけれど僕の仕事は週によって多岐にわたっているよ。音楽業界についてよく知らない僕の友達が、僕がどんな仕事をしているのか尋ねてくる時、僕はよく会社に例えて説明するんだ。アーティストはいわば取締役みたいなもので、とにかく偉いんだ。僕はCEOみたいなもので、様々な部署、例えばディストリビューター、パブリッシャー、エージェント、 ロウヤー、アカウントに対して日々指示をしたり、何かが起きた場合にアーティストに状況を説明した上で選択肢を提示したりね。本当に場合によって全くやっていることが違うんだ。ある時には韓国で販売する物販の経費を計算したり、ある時にはカナダでのメディア広告ごとの視聴回数を調べたり、Brunoが今取り組んでいる曲に関してプロデユーサーとの契約を交わしたりね。

――つまりBrunoの抱えるチームの中核を担っているのですね。

まぁそんな感じだね。僕を起点としているよ。


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Bruno Major
 

 

1ヶ月に1曲、1年にわたってリリースを続けた

――小さなライブからスタートしたBrunoのキャリアはストリーミングによる成功によって世界中に認知されるまでに至りました。Bruno Majorにとって第一のゴールとはなんだったのでしょうか。

まず初めに、昨年に出たアルバム「A Song for Every Moon」のキャンペーンを開始した。その時僕がBrunoのために大事にしようとしたことは「彼に自由に作曲させよう」ということ。彼が作りたいものを自由に作れるようにね。彼自身完成したアルバムと、それによって熱狂的なファンベースを獲得できたことにとても満足していたよ。次回のアルバムではストリーミングでの視聴回数と実際にチケットを買ってくれる人数を倍にできればと思っているんだ。

――Brunoの音楽がストリーミングにおいて成功を収めた理由はなんだったのでしょう。若手のアーティストは自分たちの音楽をプレイリストに載せるなど、ストリーミングを利用してファンを獲得しようと努力していますよね。何か秘訣があったのでしょうか。

何と言っても、まず言えることは全ての成功は彼の音楽に起因しているということだね。本当に素晴らしい楽曲ばかりなんだ。更に言えばジャンルがレイドバックやチルだということだね。プレイリストに載せる上でとても効果的だったよ。

――マネージャーとしてプレイリストに載せるため何かされたことはありますか。

僕らは楽曲を1ヶ月に1曲、1年にわたってリリースし続けたんだ。まだアーティストとしてのキャリアが長くない場合、コンスタントに楽曲をリリースし続けることは、ファンの関心を得る上でとても重要なことだよ。もし12曲、トラックを一度にリリースした場合、リスナーは一度に全ての楽曲を聴けるほど集中力を持続させることはない。だからアルバムとしてではなく、12曲のシングルとして毎月Apple MusicやSpotify、またはその他のサービスに楽曲を持って行ったんだ。すごくいい新曲ができたよ、是非聴いてみてくれってね。

――なるほど。アーティストは常に楽曲を出し、リスナーの興味を引き続けることが続けることが重要なんですね。

その通り。アルバムとして一度にリリースしてしまうよりもシングルとして発表し続けることが大切なんだ。ビッグネームなバンドでない限り、Instagramで何度も繰り返し情報を投稿して、リスナーの関心を刺激し続けることが一番だと思うよ。

――アーティストはできるだけ多くのSNSを利用するべきでしょうか。

もちろんその通りだよ。SNSは直接アーティストの声をファンに伝えることができる点でとても有効だからね。

――どのSNSがもっとも効果的なのでしょうか。

現時点でBrunoにとってはInstagramだね。でもそれはアーティストや活動している場所によって変わってくるよ。

――Facebookならより情報を公的に伝えることができますよね?

そうだね。でもInstagramならよりクリエイティブに伝えることができるんだ。ロンドンでは25歳以下の人はほとんどFacebookを使っていないんじゃないかな。日本ではどう?

――基本的にはInstagramだと思います。ただ日本はストリーミング後進国であり、未だにCDによる収益が大きく、アーティストが個人単位で活躍できる環境が整っているとは言えません。そのためどのSNSを使うことが効果的なのか、どんなプロモーションが必要なのか、悩みを抱えているアーティストはたくさんいると思います。


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Asia Tour演奏中のBruno Major
 

 

アーティストは彼らが創りたいように芸術作品を生み出す必要がある

――音楽業界の大きな変化についてどのように考えていますか?

僕がUniversal Recordで8年前に働き始めた時、レコードレーベルという職に安全なんて補償されてなかったんだ。働いている人は次々に解雇されていった。リスナーは違法に音楽をダウンロードしてしまうから、レーベルがなんとかお金を生み出す方法を考えた。だから初めはストリーミングの人気は無かったし、Spotifyがサービスを始めたはいいもののその収入は少なかった。だから年々収益が落ち込んでいた時代が終わって、ようやく明確な黒字が徐々にで始めたのはここ5年くらいの話なんだ。あと10年のうちにもっと向上すると思うし、まだ始まったばかりなんだよ。もうアーティストがメジャーレーベルに所属せずに生活できると思うと、すごくワクワクするよ。

――するとメジャーレーベルの役割はどうなるのでしょう?

レーベルはおおよそ50年音楽をマーケティングしてきて、音楽を生み出し売り出してきた。だから彼らは彼らが何をしてきたのか、きちんと理解しているし、それはとても素晴らしいことだと思う。チャートの90%はメジャーレーベルからの作品で、それは今後も変わることはない。莫大な資本と国際的なネットワークを持っているからね。彼らのオフィスをは世界中にあるから、ヒットしそうな楽曲を抱えれば、世界中の窓口が一斉にヒットを目指して一丸となれる。この先も彼らは存在し続けるだろうけど、でもインディペンデントに活動するアーティストもたくさん出てくると信じているよ。

――実際ストリーミングによる売り上げはどの程度のものなのでしょうか?

ちゃんと稼げていると思うよ(笑)。

――Brunoは全てのストリーミングサービスで音源を配信していますか?

しているよ。ファンがいるところはどこであっても、音源が聴ける状態にしておきたいからね。

――ではYouTubeでの収入はどうでしょうか?

とても低いよ。

――ただファンベースを獲得する上ではものすごく影響力がありますよね。

その通りなんだ。色々な人に見てもらいやすいしね。それにYouTubeは自身の配信サービスを開始したから時期に収入面も良くなると思うよ。

――SoundCloudやBandcampはどうでしょうか?利用すべきでしょうか?

もちろんさ。言った通り、どこでも聴ける状態を維持することが大切だからね。

――でもSoundCloudからは収入は得られないですよね。BandcampもYouTube同様少ないのではないですか。

いや、今はSoundCloudからも収入を得ることはできるよ。SoundCloud Premiumというサービスが始まっていてね。SoundCloundを利用するBrunoのリスナーは日本、韓国が多くて、逆にアメリカやヨーロッパは少ないんだ。

――Brunoは配信以外にCDなども販売していますか。

しているけど、売れ行きは悪いよ。Brunoのファンはアメリカの18〜20代の女性に多いんだけど、彼女たちはあまりレコードを買わないからね。

――いま配信音楽の中でも、チル系ヒップホップであったり、ある種人気になりやすいジャンルというものが固定化してきているように思います。アーティストは人気になるために、その流行りに迎合すべきでしょうか?

アーティストは彼らが創りたいように芸術作品を生み出す必要がある。決して流行りに合わせたスタイルの変更はするべきではないよ。絶対にうまくいかないからね。

――では例えばギターやベースなど、基本的な楽器のみで構成されるようなシンプルな音楽はどのようにプロモーションすれば良いと思いますか?

定期的にデジタル音源を配信して、プレイリストに乗るように手配した上でライブを重ねて、日々のSNSの更新も怠らない。やることは変わりないよ。

 

一番重要なことは、自分たちのビジョンをしっかりと確立させること

――アーティストの収入は、ツアートグッズからの収入が大きく割合を占めると思います。アーティストは彼らが人気になる前の段階であっても積極的にツアーをするべきでしょうか?

そうだね、将来のためにも。ツアーの効果が機能するのにも時間がかかるからね。

――ではローカルではなく、世界でツアーをすることに関してはどうでしょう?

ツアーはするべきだと思う。僕たちの場合、Brunoをストリーミングで聴いてくれているファンが、実際にライブでBrunoに会えるチャンスを作りたいと思ったんだ。ストリーミングのシーンとライブのそれは違うから、一つがうまくいっているからといって、もう一つがうまくいくとは限らない。だから両方に力を入れる必要があるし、そのためにもしっかりとデータをもとに、どこにファンがいるのかを見極める必要があるんだ。

――ツアーをする時はどのような手筈で決まるのでしょうか。主催者側から招致を受けるのでしょうか?

招致を受けたわけではないけれど、例えば僕らがアメリカでツアーをした時はアメリカのエージェントが開催場所をすべて決めてくれたんだ。

――では今回の日本を含むアジアツアーはどのようにして開催場所を決めたんでしょうか?

アジアを拠点とするプロモーターが全てを決めてくれたんだ。エージェントの知り合いがアジアのプロモーターをやっていてね。北京をベースに活動をしているのだけど、今回の東京でのツアーも含めて、ホテルからチケットから彼が全て手配してくれたよ。


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マニラを除く全公演がソールドアウト

――なるほど。今回日本の公演は東京と山形で開催されます。特に山形に関してはフェスへの出演。アーティストにとって、ファンベースを獲得する上でフェスへの出演は効率が良いと言われていますよね。

そうだね。今回オファーを受けた時、出演は新しいファンを獲得するのにすごくいいアイディアだと思ったんだ。

――ただ一般的にツアーはアーティストにとってリスキーではないですか?

そうだね、ツアーはお金がかかるから。特にソロアーティストがクラブで演奏する時はバンドも雇わなければならないしね。それでもそれは立派な未来への投資だよ。

――つまり収入を得るためではなくファンベースを得るためのツアーということですね。

そう!それに音楽的にも素晴らしいことだよ。たくさんの人がストリーミングを通じて曲を聴いているということだけではなくて、どこに、どんなファンがいて、さらにどんな反応を示してくれるのか、ピンポイントにとても大切な情報を得ることができるんだからね。

――東京での公演はファンベースのためですか、それとも収入?

ファンベースを獲得するのが目的だよ。僕らはこの1年それぞれの場所でどのくらいのチケットが売れるのかを検証してきたから、またアジアツアーをする時は収入も期待できるかもね。

――なるほど。そういえばSam SmithのオープニングアクトをBrunoが勤めていましたよね。いかがでしたか? またどのような流れで決まったのでしょうか。

知り合いのつてで決まったのだけど、最高だったよ。会場にいるファンがBrunoの音楽を聴きにきているわけではないから、オープニングアクトとして演奏するのは、なんだか変な感じがしたけど、Sam Smithのファンはとても暖かくBrunoの演奏を受け入れてくれたよ。

――それでは最後の質問です。アーティストにとって人気になるために一番重要なことはなんでしょうか。

アーティストにとって一番重要なことは、自分たちのビジョンをしっかりと確立させることだね。アーティストは自分たちがどんな音楽を作りたくて、そのためにどんなチームが必要なのかを知る必要がある。そうしなければ彼らが望まないような方向へ進んでいってしまうから。僕も少し偏りはあるけれど、しっかりとしたビジョンを維持して、いいマネジメントができればうまくいよ。


Bruno Major
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取材協力:Sae Ishizuka

この記事の執筆者

Shin Takahashi